兰
言いながら、それでも贅沢な食卓をととのえてくれた。父親はちょっと箸をつけただけで専ら酒を含み、ひさしの食欲を満足そうに眺めていた。
はさしは、初めて会った女将の物言いや仕種を見て、他人の死をこんなにまあで悲しむのは、きっと優しい人に違いないと思ったが、そのうちに、その悲しみの一通りでない様子から、自分を可愛がってくれた1の今まで知らなかった一面を、それとなく知らされもした。
あの叔父さんは、じぶんはさきにさようならしたからいいようなものの、この女の人はこれからどうやって生きてっくのだろう。今日という日に、大事な人のお葬式にも出られないで、同じ土地にひっそり働いている女の人を知ったことが、ひさしに、漠然とながら人生の奥行きのようなものを感じさせた。
玄関を出る時、女将は父親に、あまり遠くない時期にぜひもう一度お尋ねくださいと言い、父親が女将に、あなたもどうぞ気を強く持って下さいと言っているのをひさしは聞いた。ひさしは、今自分がこの女の人のために出来るのは、心からお礼を言うことだけだと思ったので、父親のそばからただ一言、
「ありがとうございました。」
と丁寧に言って頭を深く下げた。
町中の堀割を、静かな音を立てて水の流れている町だった。あの世へ旅立ったばかりの人が、今にも後から追って来そうなその掘割のそばを、父親はもう二度と通ることもないだろうおと思いながら、一歩一歩を踏みしめるように、黙って駅に向かっていた。
向かいの席で時々額の汗を抑えていた父親は、いつの間にか目を閉じていた。隣の老人に寄りかかられて、心持からだを斜めに倒している。ひさしの周囲で不機嫌そうな顔をしていた大人達も列車が走り続けるうちに、振動にまかせて一様に首を傾げ、一様に目を閉じていた。
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