兰
すろと父親は、手にしていた扇子を開きかけ、いきなり縦に引き裂いた。そして、その薄い骨の一本を折り取ると、呆気にとられているひさしの前で、更にたでに細く裂き、 「少し大きいが、これを楊枝の代わりにして。」
と言って差し出した。
ひさしは、頭から冷や水を浴びせられたようだった。その扇子は、なくなった祖父譲りの物で、父親がいつも持ち歩いているのを知っていたし、扇面には、薄墨で蘭が描かれていた。その蘭を、いいと思わないかと言ってわざわざ父親に見せられたこともある。 ひさしは、
「蘭が......」
と言ったきり、あとが続かなくなった。
父親に促されるまま、ひさしは片手で口を覆うようにして、細くなった扇子の骨を歯に当てた。
熱が退くように、痛みは和らいていった。ひさしから痛みが消えたのを見届けると、父親はハンカチーフでゆっくり顔を一拭きした。そらからまた、元のように目を閉じた。 ひさしは、自分の意気地なさを後悔した。
父親が惜しげ気もなく扇子を裂いてくれただけに、責められ方も強かった。うれしさも、ありがたさも通り越して、何となく情けなくなっていた。
しかし、ひさしはその一方で、ずっと大切にしてきた物を父親に裂かせたのは、自分だけではないかもしれないとも思い出していた。はっきりとは言葉に出来ないのだが、決して望むゆにではなく、やむを得ない場所で否応なしの勤めをさせられているように見えるこの頃の父親を、ひさしは気の毒にも健気にも思い始めていた。
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