日语综合教程第五册第八课 兰(2)

兰

見るからに暑苦しいカーキ色の服の襟元を詰めて、わざと風通しを悪くした部屋でゆるい目隠しをされているような時間が、さすがの父親にも耐え難く思われた。

戦争をする相手の国が増えて、質素と倹約の生活を政府がすすめるのと見合うように、近郊へ買出しに出かける人の数も次第に増えている。現にこの車輌の網棚の荷物も半ばは大きなリュックサックで占められている。通路も塞がっているので、互いに気軽に洗面所へ立つことも出来ない。

ひさしには、座席にいて見渡せる乗客のどの顔も、一様に不機嫌そうに見えた。自分の痛みが高じると、人々の不機嫌も高じるように思われた。

父親は、工場を休みでの葬儀への出席だった。離れた土地にまでわざわざ一人息子を伴う気になったのは、長い間、親以上の懇意で頼り合った同業の故人に、ひさしが格別可愛がられていたのも理由の一つだが、この時勢では、息子を連れて旅する機会も、これからはなくなるだろうという見通しもあってのことだった。しかしそれだけは、ひさしにも、母親にも言わなかった。

何年か前までは、家族で避暑地に滞在する生活もあった。けれども父親の見る限り、びそうした生活に戻れるあてはなく、工場での働き手も、一人また一人と兵役に抜き取られて、次々に戦場に送られていた。工場の規模でさえ、否応なしに縮小を迫られる日のそう遠くはないことも、この父親にはすでに分予感されていた。

父親は、は指しを伴うのに、葬儀という名目があってむしろよかったと思った。それで、葬儀が終わると、あらかしめ頼んでおいた店に寄って、ひさしに好物の水炊きを食べさせた。

店と言っても、表に看板も掲げていないしもた屋ふうの造りである。ここの女将と亡くなった人とが普通の親しさではなかったところから、父親はそれまでにも幾度かこの店に案内されていたが、水炊きのよかった記憶がひさしに繋がって、無理を知で頼んでみた。 ひとしきり思い出し話に涙を拭い続けた女将は、こんな時ですから、材料喪おおっぴらには手に入りませんし、板前も兵隊さんに取られてしまって、いつまで営業出来ますやらと

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